第1回:注目される「学習」の重要性とラーニングデザイン

この1~2年で、急速にAI関連のテクノロジーが進化し、業務に必要とされるスキルの習得にもスピードが求められています。従業員が継続的に効果的・効率的な学習ができるかどうかは、組織の持続可能性(ESG経営)にとっての重要戦略であることが、OECDやWorld Economic Forumなどの機関の報告書*(「雇用の未来」レポート2025 |世界経済フォーラム)でも指摘されています。組織戦略としても学習の重要性が増している今、e-ラーニングコースやコンテンツなど「学習」を提供する私たちにも、より効果的な学習(ラーニング)のための知識やスキルを再度確認したり、アップデートすることが求められていると言えるのではないでしょうか。
今回デジタルシープラーニング社から、コラム連載の機会をいただきました。「ラーニングデザイン」をテーマに、効果的な学習体験を提供するために必要な「ラーニングデザイン」について、その基本的な理論と実践例や、テクノロジーの活用、学習を取り巻く最新情報などをまじえてお伝えしていきたいと思います。
今回のコラムでは、ラーニングデザインの基本概念とその重要性についてご紹介します。
ラーニングデザインの定義
ラーニングデザインとは、学習者が効果的かつ効率的に学ぶことができるように、教育プログラムや学習コンテンツを計画・設計するプロセスを指します。このプロセスには、学習目標の設定、学習活動の計画、評価方法の設計などが含まれます。ラーニングデザインは、単に情報を伝えるだけでなく、学習者が積極的に参加し、理解を深め、知識を応用できるようにすることを目指しています。そして、その前提としてあることは、学習する目的である習得した知識やスキルを業務(タスク)に活かすことがあります。
ラーニングデザインの重要性
学習効果の最大化:
良いラーニングデザインは、学習者がより効果的に学習内容を理解し、記憶し、応用できるようにします。インストラクショナルデザインなどのようなシステマチックなアプローチをとることによって、学習ニーズにマッチした学習目標の設定と適切な学習活動を通じて、学習効果を最大化します。学習者のエンゲージメント向上:
適切なラーニングデザインは、学習者の興味を引きつけ、積極的に学び続ける意欲を高めます。インタラクティブなコンテンツや実践的な活動を取り入れることで、学習者のエンゲージメントを向上させます。エンゲージメントの高い学習者は、より深く学習内容を理解し、長期間にわたって知識を保持することができることが長年の研究から分かっています。個別化学習(パーソナライズ ラーニング)の実現:
伝統的な集団を対象とした研修は、急速に個別化のアプローチに置き換わると言われています。各学習者が自分のペースで効果的に学習できる環境を整えることが現在の働く環境における学習者に必要だからです。個別化学習を提供するためには、各人のスキルギャップや学習ニーズの状況を捉えた柔軟なラーニングデザインが不可欠です。(参考:OKLCDモデル:ラーニングデザイン・ハンドブック - JMAM 日本能率協会マネジメントセンター 「人・組織・経営の変化」を支援するJMAMの書籍)それは、学習者の進捗状況や理解度に応じて学習内容を調整し、よりパーソナライズされた学習体験を提供することにつながりますが、そのためには、さまざまな学習者レベルや学習ニーズに応じた学習設計がキーとなります。持続可能な学習:
しっかりと設計されたラーニングデザインは、学習者が学んだことを長期間にわたって維持し、実生活や職場で応用できるようにします。継続的な学習と実践を促進するためには、それを可能にする学習設計が必要です。特に、実世界の問題解決に応用できるスキルの習得を重視することは、学習者のモチベーションを維持することがわかっています。
上記すべてに関連して、適切なラーニングデザインを実施するにあたってのポイントは、以下です。
- 明確な学習目標の設定
- 実践的な学習活動(ラーニングアクティビティ)
- 反復と復習
- フィードバックの提供
- 協力的な学習環境の促進(コラボレイティブ・ラーニング)
- 継続的な学習機会の提供
- 実践への応用
これらを統合的な仕組みとして提供できることが、「コンテンツ」としての学習の提供だけではなく、実業務や経験に活かすことができる学習環境の実現につながります。そのためには、テクノロジーの選択も含め、意味のあるラーニングデザインの実践スキルが、「学習」を提供する私たちには必須条件です。
ラーニングデザインの基本ステップ
今回の連載では、インストラクショナルデザインの基本モデルとして広く知られているのが、ADDIEですが、そのモデルを中心に、ラーニングデザインの基礎やその理論を振り返っていきます。
読者の皆様は、すでにそのモデルをご存じの方も多いかと思いますが、簡単にADDIEをまとめてみましょう。
- Analysis(分析):学習者のニーズや背景、学習目標を分析します。これにより、効果的な学習プログラムの基盤が築かれます。
- Design(設計):学習目標に基づいて、学習活動や評価方法を設計します。具体的な教材や学習シナリオを作成するステップです。
- Development(開発):設計段階で策定されたプランに基づいて、実際の学習コンテンツや教材を開発します。この段階では、マルチメディア教材やインタラクティブな学習ツールの作成や学習アクティビティの内容の詳細が作成されます。
- Implementation(実施):開発された学習プログラムを実際に実施します。学習者が教材にアクセスし、「学習活動」を行う段階です。リアルタイムの研修や学習セッションでは、ファシリテーターやインストラクター(講師)によってデリバリーされます。ファシリテーターやインストラクターは、インストラクショナルデザイナーによって設計されたコンテンツを学習者が学習活動を通じて学ぶことを促進します。
- Evaluation(評価)**:学習プログラムの効果を評価し、必要に応じて改善を行います。
- 分析:学習者のニーズや背景、学習環境を分析します。
- 設計:学習目標を設定し、それに基づいた学習活動や評価方法を設計します。
- 開発:実際の学習コンテンツや教材を作成します。
- 実施:設計・開発されたプログラムを実際に実施します。
- 評価:学習成果を評価し、必要に応じてプログラムを改善します。
まとめ
ラーニングデザインは、学習・教育やトレーニングの効果を高めるための重要なプロセスです。学習者が積極的に参加し、持続的に学ぶための環境を整えるためには、しっかりとした計画と設計が必要です。
そのための基礎となる理論や設計のポイント、また、現在のビジネス変化に適した学習環境を整えるために必要なことを共有していきます。
次回は、業務やビジネスに貢献するラーニング提供のために必要なインストラクショナルデザインの第一ステップ、「ニーズ分析」について深堀していきます。お楽しみに。