第4回:学習ニーズに応える ‐長期(戦略)的と短期(方策)的学習ニーズ対応の具体例‐

前回は、学習ソリューションの効果性を最大化するための「戦略的学習ニーズ」と「方策的学習ニーズ」の違いとそのニーズを明らかにするための方法を見てきましたが、第4回では、各ニーズに対する学習ソリューションの具体例を見てみましょう。
第3回コラムにその違いを簡潔に表にしましたが、学習コンテンツや学習ソリューションを提供する人にとっては、その具体的な展開例もきになるところです。
先ずは、戦略的学習の場合をみていきましょう。
1.戦略的学習ニーズへの学習ソリューション
目的
組織の長期的な目標やビジョンをサポートし、個人の長期的な成長や目標を達成するための人材育成を目的としています。

特徴
- 長期的視点:将来のビジネス環境や戦略的目標に合わせたスキル・知識の習得を目指します。
- 全社的影響:組織全体の競争力や革新性を高めることが主な目標となることが多いです。
- フォーカスエリア:リーダーシップ開発、変革への適応、新しい市場参入スキルなど。
- 学習方法:戦略的なケーススタディ、シミュレーション、プロジェクトベースの学習、高度な研修プログラム。
戦略的学習ソリューションの具体展開例
① リーダーシップ育成プログラム
- ジョブローテーションやメンタリングを組み合わせたリーダーシップ育成プログラム。
- ケーススタディを通じた戦略的意思決定スキルのトレーニング。
② イノベーション促進トレーニング
- デザインシンキングやリーンスタートアップ手法の学習ワークショップ。
- アイデアを実践に移すためのプロジェクトベースの学習。
③ 多文化対応トレーニング
- 海外市場向けの商品開発チームのための異文化理解ワークショップ。
- 複数言語でのビジネス交渉スキル習得プログラム。
④ 経営戦略シミュレーション
- 仮想企業を舞台とした経営戦略シミュレーションゲーム。
- 競争環境や市場変動に基づくリアルタイムケーススタディ。
2.方策的学習ニーズへの学習ソリューション
目的
現場の具体的な問題を解決し、業務パフォーマンスを向上させることを目指します。

特徴
- 短期的視点: 目の前の課題やプロセスの効率化を重視します。
- 具体性: 学習内容は現場の業務や日常的なタスクに直接適用可能である必要があります。
- フォーカスエリア: 新しい業務プロセスの習得、新システム導入研修、現場での課題解決トレーニングなど。
- 学習方法: ワークショップ、eラーニング、ハンズオン形式のトレーニング。
方策的学習ソリューションの具体展開例
① 新システム導入トレーニング
② 業務プロセス改善トレーニング
③ 安全管理トレーニング
学習ニーズの違いによるテクノロジー展開とその特徴
1.戦略的学習ニーズに対応するラーニングテクノロジー
リーダーシップやイノベーションといった戦略的学習ニーズにおいて、単に知識を提供するだけでなく、学習の成果を実践的かつ継続的に引き上げる仕組みが必要です。そういった意味で、テクノロジーには、単体の知識やスキルに対応するものというより、包括的に組織と個人の成長を捉えることができる仕組みが必要になります。
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① ラーニング・エクスペリエンス・プラットフォーム(LXP)
LXPは、AIや機械学習を活用して、学習者の好みや役割に合わせたパーソナライズされた学習コンテンツを提供します。なぜ、LXPが戦略的学習ニーズに対応する学習ソリューションなのでしょうか?
LXPは、組織の目標やビジネス戦略に基づいて必要なスキルセットをマッピングする機能を持っています。このスキルマッピングにより、現状のスキルギャップを特定して、パーソナライズされた学習パスを提供することができ、個人の長期的なスキル習得を助けるとともに組織の長期的育成目標を明確にすることができるため、組織戦略と一致する学習計画と実施が可能するからなのです。単なるラーニングコンテンツの提供と学習履歴管理を提供するラーニングマネジメントシステムではないのです。
代表的なLXPの例としては、DegreedやEdCastなどがあげられます。 -
② シミュレーションとゲーミフィケーション
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③ ナレッジシェアリングプラットフォーム
Microsoft VivaやSlackといった社内SNSなどは、組織内の知識共有を促し、知識伝達とイノベーションを促進するといった観点から、戦略的な課題解決や新市場参入に向けた集団的学びを可能にするテクノロジーとして、戦略的な学習ニーズに対応するものとして活用されています。
2.方策的学習ニーズに対応するラーニングテクノロジー
方策的学習では、現場の具体的な課題や短期的なパフォーマンスニーズに対応することが重要なので、即効性と効率性を高めるソリューションの提供が求められます。
以下は、その代表的な例です。
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① AR(拡張現実)を活用した現場トレーニング
工場の設備保守で、ヘッドセットを通じて修理手順を視覚的にガイドする、建設業界での安全手順訓練などに、Microsoft HoloLens、Scope ARに代表されるARテクノロジーが活用されています。 -
② デジタルシミュレーション
リアルな業務シナリオを仮想環境で再現し、学習者が実践的なスキルを安全に練習できる環境を提供。医療分野における手術手順のシミュレーションや販売スキルを練習するための仮想店舗環境でのトレーニングといった展開がされています。SAP Enable Now、SimTutorなど。 -
③ モバイルラーニング
モバイルラーニングはかなり以前から提供されてきましたが、いつでもどこでも学習者が必要なコンテンツにアクセス可能であることとその利便性から、営業パーソン向けの製品情報や提案スクリプトをモバイルアプリで提供したり、動画やチェックリストを使った現場トレーニングに活用されたりしています。 -
④ 学習進捗の追跡と即時フィードバック
AIを活用して、学習者の進捗をリアルタイムで追跡し、即時にフィードバックを提供するといったことに活用されています。コールセンターのオペレーター向けに、会話内容をリアルタイム分析して改善提案を行う、学習の習熟度に応じた即時の修正アドバイスするといった学習機能は、Docebo、Coursera for Businessなどが提供しています。
最後に、適切な学習ソリューションを展開するにあたっては、学習者が認識している学習ニーズを把握することも、学習の活用を促すためにも重要な情報になります。多くの場合、学習者自身が自分の学習ニーズを十分に認識していないことがあるからです。インタビューやパフォーマンス分析などによって彼らの視点を掘り下げることは、学習プログラムが現場で実際に役立つ内容となる鍵です。それらのニーズをうまくテクノロジーに反映させることによって、学習をより効果的なものにすることができるでしょう。
次回は、学習設計をするにあたって重要な学習領域とBloomのタクソノミーについて紹介したいと思います。