第11回:AI × BRIDGEモデル 実践編:生成AIで研修設計を依頼する際のプロンプト例と留意点

前回のコラムでは、BRIDGEモデルを活用してAIに研修設計を依頼するためのフレームワークを紹介しました。BRIDGEは、BloomのタクソノミーやABCDモデルをベースに、研修設計に必要な要素を6つに分解し、AIに対して明確な依頼を行うための構造を提供するものです。
今回はその続編として、実際に生成AIにプロンプトを入力し、研修設計を作成する際の具体例と、設計者が押さえておくべき留意点を整理します。AIは強力な設計支援ツールですが、依頼の仕方次第で成果の質が大きく変わります。
生成AIを使って学習や研修のコンテンツを作成する際の流れを確認してみましょう。
生成AIに依頼する研修設計の流れ
AIに研修設計を依頼する際には、以下のステップを踏むことが効果的です。
- 目的と対象者を明確にする例:「中堅社員に業務課題分析力を身につけさせたい」
この段階で曖昧な表現を避けることが重要です。 - BRIDGEモデルに沿って情報を整理する
- Bloom Level(認知レベル)
- Role(対象者)
- Intent(学習目的)
- Degree(達成度の基準)
- Goal(実務でできるようになること)
- Evidence(成果測定方法)
- 構造化されたプロンプトを作成する6要素を含めた明確な文章にすることで、AIはより的確な研修設計案を提示できます。
- AIからの提案をレビュー・調整する提案された研修構成や演習内容を現場に合わせて修正することが不可欠です。
学習ニーズをとらえた設計にするためのプロンプト
では、生成AIに対して、どのような依頼文を入れることが、学習ニーズに対して適切な設計案がでてくるか、実践してみましょう。
中堅社員向けの業務課題分析のコースを設計したいとします。まずは、いくつか、ご自身で試してみてください。
次にここに紹介されているプロンプトを入れてみましょう。
プロンプト例(成果指標が明確な場合):
あなたは人材育成コンサルタントです。BRIDGEモデルに基づいて、中堅社員向けの業務課題分析力育成研修を設計してください。研修はAnalyzeレベルの習得を目指し、対象は入社5〜10年目の中堅社員です。学習目的は、業務課題を構造的に捉え、改善の方向性を見出す力を育成することです。研修内では、分析フレームを用いて課題の構造を説明し、チェックリストの80%以上を達成することを学習達成度の基準とします。最終的には、実務で改善提案ができるようになることを目標とし、成果測定には提案件数、上司評価、業務改善指標を用いてください。研修手法は未定のため、ケーススタディ以外の選択肢も含めて提案してください。
このように具体的な達成度や成果指標を明示することで、AIはより精緻な研修設計を提示できます。ぜひ、上記のプロンプトを入れて、試してみてください。
次に研修の成果指標が未定の場合を見てみましょう。
プロンプト例(成果指標が未定の場合):
あなたは人材育成コンサルタントです。BRIDGEモデルに基づいて、中堅社員向けの業務課題分析力育成研修を設計してください。研修はAnalyzeレベルの習得を目指し、対象は入社5〜10年目の中堅社員です。学習目的は、業務課題を構造的に捉え、改善の方向性を見出す力を育成することです。研修内では、分析フレームを用いて課題の構造を説明し、チェックリストの80%以上を達成することを学習達成度の基準とします。最終的には、実務で改善提案ができるようになることを目標とします。成果測定方法は未定のため、業務改善に結びつく行動や提案の質・頻度などを基に、適切な指標を提案してください。研修手法も未定のため、ケーススタディ以外の選択肢も含めて最適な構成を提案してください。
成果指標が未定の場合でも「提案してください」と依頼することで、AIは業務文脈に応じた指標を提示してくれます。また、学習結果の評価のためのルーブリックも、研修や学習コンテンツの手法に合わせて提示してくれるので、それを基に、目指している学習効果に適した評価軸を検討することも可能です。
いかがでしたでしょうか?
以下は、プロンプトを考える際の留意点です。
留意点
- 曖昧さを避ける 「良い研修」ではなく「Analyzeレベルで課題を構造的に捉える力を育成する」など具体的に記述する。
- 成果指標を明示する 提案件数、上司評価、業務改善指標など測定可能なものを指定。未定の場合は「成果測定方法も提案してください」と依頼する。
- 手法の柔軟性を残す ケーススタディやロールプレイなど、複数の手法を提案させることで設計の幅を広げる。
- レビューと調整を前提にする AIの提案はそのまま使うのではなく、現場の文脈に合わせて修正する。
- 学習対象者の役割の再定義 例えば、マネージャーや学習コンテンツを設計したいときに、単に「マネージャーに対して」だけではなく、求められている役割を具体的に入れることによって、学習ニーズにそった学習コンテンツを提示してくれます。例えば、マネージャーの役割に対して次のような説明文を加えます:「業績だけでなく『業務と人をつなぐ』役割を担う」
まとめ
生成AIに研修設計を依頼する際は、BRIDGEモデルの6要素を明確に記述することが鍵です。成果指標が未定でも「提案してください」と依頼すれば、AIは業務文脈に応じた指標を提示してくれます。設計者はAIを「設計パートナー」と位置づけ、曖昧さを排除しつつ柔軟性を残すことで、より実務に即した研修設計が可能になります。
AIと人間の協働によって、研修設計は単なる「教材作り」から「組織成果につながる仕組みづくり」へと進化します。今後は、AIが提示する設計案を人間がレビューし、現場の文脈に合わせて調整するプロセスが不可欠です。BRIDGEモデルを活用することで、AIは単なるツールではなく、設計パートナーとして機能し、学習(研修)設計の質を向上させることができます。
みなさんの実践に役立つチェックリストと活用ガイドです。これらも参考にして、生成AIを活用してラーニング設計をしてみてください。
チェックリストは「依頼前の確認用ツール」として活用ができます。
実務者向けガイドは「設計から実施までの流れ」を整理したものです。
両者を併用することで、AIを「設計パートナー」として活かし、研修設計の質と実務接続性を高めることができます。
チェックリスト:生成AIに研修設計を依頼する際の確認項目
- 目的の明確化
- 研修の狙いは何か?(例:課題分析力の育成)
- 「良い研修」ではなく具体的な行動や能力を記述しているか。
- 対象者の特定
- 誰に向けた研修か?(例:入社5〜10年目の中堅社員)
- 業務課題や現場状況を理解しているか。
- 学習目標の設定(Bloomレベル)
- どの認知レベルを目指すか?(例:Analyze)
- 達成度を測定可能な形で表現しているか。
- 達成度の基準(Degree)
- 研修内で何をもって「できた」と判断するか?
- チェックリストや演習課題など具体的な基準を設定しているか。
- 実務での目標(Goal)
- 研修後に業務で何ができるようになるか?
- 上司やチームへの提案、改善行動などを明示しているか。
- 成果測定方法(Evidence)
- 提案件数、上司評価、業務改善指標などを指定しているか。
- 未定の場合は「成果測定方法も提案してください」と依頼しているか。
- 研修手法の柔軟性
- ケーススタディ以外の選択肢も含めてAIに提案させているか。
- レビューと調整
- AIの提案をそのまま使わず、現場文脈に合わせて修正する前提を持っているか。
実務者向けガイド
生成AI × BRIDGEモデルを活用した研修設計の実務ステップ
- ステップ1:準備
- 研修の背景や目的を整理する(組織課題・人材課題)。
- 対象者の属性や業務状況を把握する。
- ステップ2:情報整理(BRIDGEモデル)
- Bloom Level:認知レベルを決める(例:Apply, Analyze)。
- Role:対象者を明確化する。
- Intent:学習目的を具体化する。
- Degree:研修内での達成度基準を設定する。
- Goal:実務での成果を定義する。
- Evidence:成果測定方法を指定、またはAIに提案させる。
- ステップ3:プロンプト作成
- 上記6要素を含めた依頼文を作成する。
- 曖昧な表現を避け、具体的な行動や成果を記述する。
- ステップ4:AIへの依頼
- プロンプトを入力し、研修設計案を生成する。
- 複数の手法や成果指標を提案させる。
- ステップ5:レビュー・調整
- 提案内容を現場の状況に合わせて修正する。
- 成果指標や演習内容を組織のKPIと接続する。
- ステップ6:実装とフィードバック
- 研修を実施し、成果指標を測定する。
- AI提案と実務成果を比較し、次回の設計にフィードバックする。
次回は、「人」の学習を考える上でのコンテンツや学習構成を設計する際の考慮点を、「成人学習者の心理」の観点と「学習の科学」の観点から考えてみます。